子どもがいて離婚をする場合、よく問題になる点の一つが養育費です。金額をいくらにするのか、いつまで払い続けるのかなどが離婚のときにはよく問題となりますが、離婚が成立した後でも問題がないわけではありません。養育費の支払いについて話し合って決めたものの、いざ離婚してみると、きちんと支払いがなされない・途中から滞ってしまったというケースは少なくないのです。
では、離婚の際に取り決めた養育費が払われなかった場合、支払いを受けられていない側は相手に対して何ができるのでしょうか。この記事では、養育費の強制執行という手続きについてご説明させていただきます。
養育費の強制執行とは
強制執行とは、裁判所を通じ、支払う義務のある者の財産を強制的に差し押さえて支払いを強制する制度です。この制度を利用すれば、養育費を支払わなくてはならない者の預貯金や毎月の給料などから、強制的に養育費を回収することができます。
もっとも、強制執行の手続きを行うためには、事前に準備しておかなければならないことがいくつかあります。
強制執行の手続きに必要な準備
養育費の強制執行は裁判所を通じた手続きですので、養育費を支払う義務について公的に認める手続きを経た上で、そのことを証明する書類を準備することが必要になります。具体的には、以下のいずれかの書類が必要です。
① 養育費の支払いについて認められた確定判決
② 養育費の支払いについて成立した調停調書・和解調書
③ 養育費の支払いについて記載された離婚協議書等の公正証書(「養育費が支払われなくなった場合には強制執行をしてもよい」という旨の記載(執行認諾文言)が併せて記載されているもの)
逆に言うと、上記の書類がなければ強制執行はできません。そのため、養育費を支払ってもらう側で支払いに不安のある方は、離婚の条件を取り決めた際には、できるだけ公証人役場で公正証書(執行認諾文言付き)を作成してもらった方がよいことになります。
では、上記の書類がない場合はどうすればよいか?まずは裁判所で養育費の支払いを求める調停を行うことになります。
強制執行で差し押さえられる財産
⑴ 対象財産は大きく分けて3種類
強制執行では、養育費を支払う義務のある者の名義となっている財産を差し押さえることができます。差し押さえられる財産の種類は、大きく分けると、①不動産(土地、建物)、②動産(自動車、宝石、時計など)、③債権(預貯金、給料、投資信託など)の3種類です。
不動産や動産であれば、それを差し押さえた上で強制的に売ってお金にすることになりますし、預貯金債権や給料債権であれば、代わりに自分に対して支払うよう金融機関や会社に強制することになります。
⑵ よく対象になるのは預貯金債権・給料債権
上記の財産の中でも、特によく強制執行の対象になるのが、預貯金債権と給与債権です。お金を直接受け取ることができ、不動産や動産のように売ってお金にする手間が省けること、特に給与債権は、一度差し押さえてしまえば毎月差し押さえる必要がなく、毎月給料が支払われる度に回収が可能であることがその理由です。
ただし、給料債権については、給料全額を差し押さえることはできないことには注意が必要です。全額を持っていかれては生活費すら残らないことになってしまうので、養育費の回収のために差し押さえをする場合には、原則として給料から税金と社会保険料と通勤手当を引いた金額の2分の1(その額が33万円を超える場合には33万円まで)については差し押さえが禁止され、本人の手元に残さなくてはならないと決められています。
また、給与債権の差し押さえがなされると裁判所から会社にそのことが通知されて会社にも知られることになることや、支払う義務のある者がその会社を退職してしまうと差し押さえの効果はなくなってしまうことなどにも注意が必要です。
おわりに
この記事では、養育費を払わない場合における強制執行の手続きについてご説明させていただきました。
もっとも、養育費についての公正証書の作成や裁判所での調停手続きはもちろん、強制執行の手続きを行う際にも、裁判所に提出する申立書の作成や財産の調査など、やらなくてはならないことは意外に多く、実際に自分ひとりで手続きを行うのは難しいとおっしゃられる方は少なくありません。そのような場合には、弁護士などの専門家に相談することをお勧めいたします。
ご不安の際には、お気軽にご相談下さい。